群馬の民俗芸能

獅子舞

無言の仮面劇

千本木龍頭神舞

 獅子舞は、無言の仮面劇で、囃子(はやし)の演奏で舞が行われる。群馬県では、「お獅子」「ささら獅子」「ささら」と呼ばれる。ささらは本来、囃子に用いる楽器の名称である。県内の郷土芸能のうちで最も盛んに行われ、その数は250を超し、分布は県内全域に及ぶ。多くの獅子舞が神社の春秋の大祭で舞われるため、祭礼には獅子舞がつきものであるという印象を人々に与えている。

恐ろしい形相は悪魔退散

 獅子頭(ししがしら)は、恐ろしい形相を呈しているが、悪魔退散を願ったもので神聖視されている。近世初期の獅子頭は、重箱型で桐材が用いられていた。獅子頭の多くは、黒や朱の漆(うるし)塗り の彩色が施されるが、近世初期の古い獅子頭には彩色が施されず、白木のままである。甘楽郡甘楽町秋畑那須の獅子頭は白木のままであるが、上演前に色紙が貼られる。これから推測すると、かつては獅子頭も祭りに際して金銀や色紙を貼り付けたと思われる。 

二人立ちの厄よけ獅子

那須獅子舞 演舞

 獅子舞の形態は「一人立ち」と「二人立ち」に分かれ、一人立ちは一人ひとりがカシラを付けて舞うもので、県内の獅子舞は三人一組で舞うものが多い。二人立ちは前脚と後ろ脚に二人がなって舞うもので、「大神楽」「厄よけ獅子」「神楽獅子」と呼ばれている。

 二人立ちの獅子は、唐草模様の風呂敷をかぶって門付けしながら歩く。前橋市泉沢町の獅子舞は、4月1日に泉沢の一軒一軒をまわる。庭で魔よけの唱えごとと四方がためをし、座敷へ上がって家族の頭をかむ真似をする。そうすると一年間無病息災でいられるという。昔、疫病が流行したとき、悪魔払いの ために行われたのが始まりと伝える。吾妻郡吾妻町本宿道泉谷戸の厄よけ獅子は、1月14日のドンドン焼きの晩に行われ、厄年の人や赤子が生まれた家では獅子舞をする人に酒を振る舞う。

一人立ち獅子舞

 一人立ち獅子舞は、雨乞いや日照り、あるいは疫病(えきびょう)が流行したときに舞ったといわれる。伊勢崎市千本木神社の龍頭舞は、日照りが続くと広瀬川で雨乞いの舞を行った。獅子舞を見て、それがどのような意味をもつかは理解しにくい面もあるが、たとえば「橋がかり」の舞は、奥山の谷間に架かる橋を一頭ずつが渡るという娯楽性を狙った演目であり、「雌獅子隠し」は、恋愛をモチーフとした舞であるなど、無言の仮面劇には深い意味がある。 

神に捧げる舞

 舞う場所は、神社境内を始め、集落の各所をまわる。特に利根郡みなかみ町羽場の獅子舞は、「ひもろぎ」と呼ぶ注連飾りの中で舞い、利根郡みなかみ町藤原の獅子舞は白足袋を履いて神楽殿で舞う。ここは観客のために神社の舞台を見下ろす桟敷が設けられる。また、前橋市粕川町月田の近戸神社のささらは、神社境内で舞った後、集落内をお練りして、途中お旅所で休む。そして最後に、元粕川が流れる近戸社の石宮前で舞っている。

(文責:板橋春夫)

※写真の転載はお止め下さい。